「自社の業務効率化のために新しいシステムを導入したい」
そう考えたとき、多くの担当者が最初に直面する壁が、「自社にあったものをゼロから作るべきなのか、既にあるものを使うべきなのか…」という選択だと思います。
どちらも一長一短で、正解は企業の状況によって異なります。
しかし、判断基準が曖昧なまま導入を進めてしまうと、「高額な費用をかけたのに使いにくい」「安く導入したが、必要な機能が足りない」といった失敗につながりかねません。
この記事では、システム導入における二大手法である「スクラッチ開発」と「SaaS」の違いを徹底比較し、自社にとって最適な選択をするための判断基準を解説します。
- スクラッチ開発とはなにか
- SaaSとは何か
- 選ぶ際に見るべきポイント
スクラッチ開発とは?「オーダーメイドの強みと課題」
定義:ゼロから作り上げる完全オリジナル
スクラッチ開発とは、その名の通り「スクラッチ(from scratch=ゼロから、という意味)」からシステムを設計・開発する手法です。
住宅で言えば「オーダーメイドでこだわった注文住宅(持ち家)を建てる」ようなものです。
自社の業務フローや要望に合わせて、画面のレイアウトから裏側の処理ロジックまで、すべてを独自に構築します。
スクラッチ開発のメリット
- 完全に自社専用にカスタマイズが可能:
「自社独自の特殊な商流に対応したい」「現場の慣れた操作感を変えたくない」といった細かな要望にも柔軟に応えることができます。システムに業務を合わせるのではなく、業務にシステムを合わせることが可能です。 - 競合優位性の確立:
他社が真似できない独自のアルゴリズムやノウハウをシステム化することで、ビジネスの競争力を高めることができます。 - システムの資産化と自由な拡張:
完成したシステムの権利(著作権など)は自社に帰属します。将来的に機能を拡張したり、他システムと連携させたりといった改修も自由に行えます。
スクラッチ開発のデメリット
- 莫大な初期コストと開発期間:
要件定義から設計、開発、テストまで多くの工程とエンジニアの人手が必要です。費用は数百万円〜数億円、期間は半年〜1年以上かかることも珍しくありません。 - 運用・保守の負担:
システムが完成した後も、サーバーの管理やセキュリティ対策、障害対応などを自社(または委託先のベンダー)で行う必要があります。完成して終わり、ではありません。 - 属人化のリスク:
長年使い続けるうちに、システムの仕様を知る担当者が退職し、誰も中身がわからなくなる「ブラックボックス化」のリスクがあります。
SaaSとは?「既製品の手軽さと制限」
定義:ネット経由で利用するクラウドサービス
SaaS(サース)は、ベンダーがクラウド上で提供しているソフトウェアを、インターネット経由で利用する形態です。住宅で言えば「整備された賃貸マンションを借りる」ようなものです。
SaaSについて詳しく知りたい方は、以下を参考にしてください!

SaaSのメリット
- 圧倒的なスピードと低コストでの導入:
アカウントを発行すれば、その日から利用開始できます。初期費用も無料〜数万円程度で済むケースが多く、スモールスタートに最適です。 - 運用・保守が不要:
サーバーの管理やセキュリティ対策、データのバックアップなどはすべて提供ベンダーが行います。自社にIT専門の担当者がいなくても安心して利用できます。 - 常に最新機能が使える:
法改正への対応や新機能の追加が自動的に行われるため、常に最新の状態のシステムを利用できます。
SaaSのデメリット
- カスタマイズの限界:
あくまで「汎用的なサービス」であるため、デザインや機能の変更には制限があります。「ここを少しだけ変えたい」という要望が通らないことが多く、自社の業務フローをシステムに合わせて変更(標準化)する必要があります。 - 長期的コストの増加:
ユーザー数課金(サブスクリプション)が一般的であるため、社員数が増えるとランニングコストが比例して増大します。5年、10年といった長期スパンで見ると、スクラッチ開発よりも総額が高くなるケースもあります。 - 他システムとの連携制限:
SaaSが提供しているAPI等の範囲でしか連携ができません。
徹底比較! スクラッチ開発 vs SaaS 比較表

どちらを選ぶべき? 失敗しないための判断基準
「結局のところ、どっちを選べばいいの?」という疑問に対し、明確な判断基準を3つ提示します。
①業務が「コア」か「ノンコア」か
ここが重要な判断基準です。
- 「コア業務(競争力の源泉)」ならスクラッチ
その業務プロセス自体が自社の強みであり、他社と差別化したい部分であれば、コストをかけてでもスクラッチ開発で独自性を追求すべきです。- 例:独自の製造管理システム、独自アルゴリズムのマッチングサイトなど
- 「ノンコア業務(一般的・定型的)」ならSaaS
人事、経理、一般的な営業管理など、「他社と同じやり方で問題ない(むしろ標準に合わせたほうが効率的)」業務であれば、SaaSを選びましょう。- 例:勤怠管理、経費精算、チャットツールなど
②予算とスケジュールの優先度
「今すぐ使いたい」「初期投資を抑えたい」場合は、SaaSがおすすめです。まずはSaaSでスモールスタートし、軌道に乗ってから独自システムを検討するのも賢い戦略です。
「来期の基幹システム刷新に向け、予算を確保済み」というような長期プロジェクトであれば、スクラッチ開発も視野に入ります。
③将来的な拡張性
将来的にビジネスモデルを大きく転換する可能性がある場合、提供範囲が決まっているSaaSでは機能が追いつかなくなるリスクがあります。逆に、スクラッチで作ったシステムが「負の遺産」になり、変化の足かせになることもあります。
そのため、「3年後、5年後にどうなっていたいか」という事業計画と照らし合わせて選択することが重要です。
まとめ:手段を目的にせず、課題解決に最適な選択を
- スクラッチ開発:自由度と独自性は高いが、コストと時間がかかる。「攻めのIT」向き。
- SaaS:手軽で早いが、業務を合わせる必要がある。「守りのIT・効率化」向き。
現代のシステム導入では、「まずは既存のSaaSで要件を満たせないか検討する」のが定石です。その上で、どうしてもSaaSでは実現できない自社の「コア業務」についてのみ、スクラッチ開発やローコード開発を検討するというステップを踏むことをおすすめします。
自社の業務を棚卸しし、「譲れないポイント」と「標準に合わせていいポイント」を整理することから始めてみましょう!

